Magic21.実技授業(1)  
 
 




初めての実技の授業が行われることとなった。
とはいえ結局キャシーには許可が下りなかった。
表向きはとりあえず初めてなので見学、という形でのものとなった。

1組2組合同での実技授業は、それぞれの組から半分ずつ生徒を出し、行われる。
その生徒たちは毎回異なるメンバーで、そして更に、対戦するか否かまでもがランダムに選出される。
そうは言っても、ある程度は調節されるようだが。

この対決でレベル上位者が負けると、下位者にレベルを渡し、自らは1つ降格となる。この勝負は有効である。
…とはいえ、あまりそういうことは起こらない。
というのも、超級になると1つ1つのレベルの差が大きくなるので、レベルでは1つしか変化はなくとも、その力や何より魔力が大幅に異なるためである。
なので、どちらかと言えば魔法を新たに生み出したり、生みだした魔法を試したり、負の魔法使いに対戦する時の心構えの練習にもなっている。
キャシーは、あまりよく知らないクラスメイトや、別のクラスの子たちのレベルの昇降には正直興味がなかった。
そして、負の魔法使いの討伐へ向けての対戦慣れにも、あまり関心がなかった。
だってどうせこんな風に、自分は実技授業を受けさせられるかどうか、ということになるのは目に見えていたから。
───私の目的は別にある。


      



授業は朝から、昼まで。まだ体力のある元気なうちに行われるようだ。
授業場所であるホールにむかうと、確かに、何となく見たかもという顔と知らない顔の半々な気がする。

アデューイの姿はない。
もともと受けない日だったのかはともかく、昨日の今日で受けるとなると、さすがにふざけるなとは言いたくなる。

「はぁいキャシー」
ぽん、と気やすく肩を叩かれて振り返る。
振り向く以前に、声と気配で誰か分かる──シンディだ。
せっかくアデューイから解放されたというのに…
キャシーは振り向きざまに目に入ったものに思わず、あれ、と視線をとめてしまった。
それは、キャシーの肩をぽん、としたシンディの手である。
その指には昨日していた大きな指輪がない。
──出力制限アクセサリー(イラセスカ)を外している。

「やーね、何?」
シンディは笑ってキャシーを見た。
「キャシーだって外した方がいいわよ。なめてかかると危ないわ」
「…私は別に今日、対戦しないから」
親切そうに言ってきたシンディに、キャシーはバッサリそう言った。
「そ…そうなのっ?でもっ…」
突然そんな声を上げたのは、シンディの腰巾着、パメラだった。
砂の魔法が得意そうな茶色の目を、メガネの向こうからキャシーに向ける。
彼女なりにキャシーのイラセスカを外させようとする言葉に聞こえたが…その理由は明確で、解放状態がどんななのかを見たいという興味本位である以外、見いだせない。
「でも…試合が荒れてこっちに攻撃が、とかあるかもよ!」
シンディがあきれてため息をついた。
もしかしたら彼女なりに、シンディに味方しようとしているのかもしれない。
とはいえ、あまりにセンスの感じられない発言である。

キャシーは静かに、
「…そんなことがないよう、このホール中こんなに厳重な結界が張られているんじゃないの?」
と敢えて聞いた。

パメラは顔を真っ赤にして、
「…そうです」
と答えた。


      

話が一段落して、そろそろ始まるか、と何となくホールを見まわすと、先ほどまでには感じられなかったひどくピリピリとした緊迫感が伝わってきた。
キャシーへの恐れかとも思ったが、それなら自分がここに入ってきた時から起こるのでもおかしくはないと思う。
一体これは何だろうと、キャシーも不測の事態に対処できるよう、少し気を張った。

「おはようございます、皆さん」
ホールに助手と思われる人を連れて、1人の男性教師が入ってきた。

その瞬間。
驚くほど、ふっ…と謎の緊迫感が緩み、不思議な安堵感が満ちた。


どういうことなのか──…


「今日はキャシーが初めての実技授業なんですね」
教師は自らをエストと名乗った。
皆の反応からして、他にすごく怖い実技授業の教師がいるが、今日の担当はこのエストという男だったから喜んだとか…?
確かに、エスト先生はわりと優しそうな30代後半の男の人。
しかしキャシーの目を通せば、わりと好戦的なオーラが見える。
額にはレベルWと出ており、水系統の魔法が得意そうな青い目、それに合った青い水晶にもWの文字が光る。

「ただ、今日の対戦はキャシーは見学ですね。今日の対戦は以下の6組──…」
1試合15分で2人で1組、計6組の試合が組まれる。
つまり今日試合が組まれなかった人たちは6試合すべてを観戦ということになる。

「最後がシンディ対アーニー」

発表後は、対戦者どうしの臨戦への緊張感などでまた雰囲気が変わったが、一体先程のは何だったのだろうか?


      

"τηισ ισ α χαντριπ. εντρυστ μΨ ποωερ το σανδ, δουρ δοων οŵερ ηιμ"
"ι χαστ α σπελλ. ρετυρντ τηε σπιριτυαλιστ ηερ σανδ ασ ιτ ισ βΨ μψ ωινδ"
すごい呪文の応酬。
なるほど、この授業で上級者の呪文を聞いて、自分で新たな魔法の詞を編み出すのに利用したりするのだろう。
キャシーだって、ひとりの魔法使いとして、その詞には興味がある。

──有効な勝負における魔法の詞(ムレット)を"呪文"と呼ぶ。
魔法の詞と呪文。
要は同じものだが、普段は魔法の詞(ムレット)と呼んでいるものが、相手を倒すという名目で用いられる時には"呪文"と呼ばれるようになる。
なのでこの場合、対戦している彼らが口にしているのは呪文ということになる。

──以前、長がキャシーに氷の魔法書を渡した時、その魔法が呪文になることがあるのか、迷って、どちらの言葉とも言わなかった。

さて。
シンディが対決したのは、レベルTの男の子で、かなり格下とのものだったが、適度な手加減と、彼女が新たに生み出したらしい魔法をためしてみたりと、随分この授業に慣れているようだ。

「シンディが最後なのは、模範試合だからなのよ」

キャシーがじっと見ていると、パメラがそう声をかけてきた。
なるほど、確かにそんな感じなのかも知れない。
それを否定しなかったし、むしろ心の中では納得も肯定もしたのだが、表面上は何も反応したかったので、パメラは去った。

魔法をどう編み出していくのか、キャシーにはとても興味があった。

無我夢中で編み出し、無意識のうちに使ってしまっていたあの魔法。
一体どうやって自分が編み出してしまったのかを知りたくて。

実はこの学校に入ったのも、それが知りたかったのが理由の1つだったのだから。






 
 
 






 

あとがき


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