Magic89. 副官   アクセスカウンター  
 
 




「テネシー!無事!?」


キャシーが扉を開け放ち、駆け込む。

余裕そうに見えていても、心配に決まっている。
そんな様子はなかなか見ないのでアデューイも走った。キャシーのために、周囲に気を配りながら。

「あぁっ待ってキャシーっ!」

テネシーの慌てた声がした。
「それ以上は危険よ〜1歩も動かないでね〜」
言ってることは多分結構ギリギリのことなのに、でも緊張感があまりない。…口調の問題かもしれない。

文字に起こすと何ともない女の子の言葉で、声がかなりハスキーなところまでは特に何とも思わなかったのだが。
ぱたぱたぱたとスリッパのような足音がして、現れたテネシーに、アデューイはズッコケかけた。

えーっ想像してたテネシーとあまりに違っ…

「もぉ結構緻密な作業してたのに邪魔されて最悪よぉ」
テネシーは喋りながら、キャシーの目の前に来て足元に手を伸ばす。
「この絨毯をめくると、ほらね〜」

1枚岩からできた、大きなタイル。
勿論その『タイル』は──

「とーぜん、イラセスカの原石よ、さらにアタシが心を込めて削り出した一級品でもあるわ。ただしまだ制御不能な段階〜」

ということは原石というよりほぼその魔力封印的な力が全面に出ている状態の…。
こんなでかいの踏んだら、とアデューイはぞっとする。

「でもこれじゃ『普通の人間(テラ)』は」
キャシーが言うと、
「ねー、だからこのタイル踏んだら電気ショックもくるようにしてあって〜」
テネシーは笑う。
「稼働したのは今日が初めてだけど、ちょっと強かったかも」
そのまま笑いながら出てきた、
タイルを踏んで。

「あなたは大丈夫なんですか」
アデューイはびっくりしたように言う。
「そりゃアタシがかかったらバカみたいじゃないの〜」
何やら電気を逃がす仕掛けがあるらしいとアデューイはテネシーの足を見る。
「いやだぁ何見てんのよぉ〜」

「え゛」

余計なことしないのっと横からの思いがけない突っ込みにハッとする。


「そういうわけで、キャシーが心配して来てくれた『ワケ』はここよぉ」
カラカラカラ、と作業場の奥にある引き戸を開けると、紐でぐるぐる巻きにされのびている男たちが出てきた。
「全員見事に感電して、この通り。邪魔だから縛っておいたの」
テネシーはケロッとしている。
「怪我はないの」
テネシーに、とキャシーが聞くと、テネシーはくるんっと回る。
「アタシのことならこの通り。言ったでしょ、アタシに到達する前に電気でのびちゃったのよ」

せっかく鍛えた腕を披露しようとしたのにぃ〜とムキムキの腕を動かす。これは組み合ったらかなりすごそうだ。なぐられても一瞬で意識が飛びそう。

「相手は名乗ったの」
「こいつら?さぁ…あぁ、ウゴクナって言ってたわね」
動くな…って、それは突入してきたときの声だろう…
アデューイはキャシーを見た。
キャシーはその視線を感じたのか、軽く頷いた。こういう人なのよ…

「長に連絡した?」
キャシーは聞いた。
「今からよ、他に潜んでないか見回ってたのよね」
こうしてキャシーたちと話しているということは、いなかったのだろう。

そして、
「さ〜て元老院に連絡して引き取りに来てもらおうかな」
テネシーは伸びをしながら言う。
一息入れようかなーと言うぐらいの軽さだ。

「あの…どうやって連絡するんですか?」
アデューイがおずおずと聞いた。
魔法はここでは使えないというから、気になったのだ。

「それがねー実に原始的な方法なのよ〜」
テネシーはお尻を振りながら部屋の隅、腰の高さにある扉を開けると、出てきたのは暖炉。
そういえば煙突を見た気がする、とアデューイはかわいい外観の家を思い出す。ちなみに内装もフリルやレースで飾られており、とにかくかわいい。

そこに、いきなり耳につけていたイヤリングを投げ入れた。

ボン、という音とともに真っ赤な炎と煙が上がり。
それは勿論煙突を通って外に排出される。

「こ…これは」
アデューイがその様子を見てぽつり。

「…俗に言うところの『のろし』?」

な、なんて古典的なと絶句すると、キャシーが気の毒そうな視線をよこした。

「――さ、待つ間お茶にしましょ。…っていうかね」
テネシーが手をはたいて2人を振り返った。

「?」
「?」
キャシーもアデューイもテネシーを見上げたが、テネシーが見ているのはアデューイ。
そして。


「あなた、誰?」



     


「ふぅん、アデューイというの。同じクラスの子なのね」
テネシーはそう言うと、すっとキャシーに寄った。

「やるわね、カレシ?」

キャシーはその発言に極めて冷ややかな視線でテネシーを見つめた。
アデューイは真っ赤な顔で慌てて否定する。

「やーねえ、かわいいんだからぁ」
テネシーは笑って紅茶を飲む。

アデューイはティーカップを持つ立った小指を見ながら、このテネシーという人がどうキャシーにとってあんなにも動揺するほどの『大切なもの』なのかを知りたいと思った。
キャシーはあんなことを言われてもテネシーを冷ややかに見ただけで、そこに気安さを感じる。
そう、キャシーが異常に気を許していることに気付いた。『異常に』だ。

「で、ここに来たワケを教えて〜」
核心を突いている質問だったのに、テネシーはまんまの口調だった。
表情も変わらない。

どんな話も自分のテンポで話すのがテネシーだが、アデューイはそれを知らない。

「テネシーを危険な目に遭わす、って手紙がイラセスカの原石とともにうちに刺さってたのよ」
キャシーが答えた。
「あら。穏やかじゃないわねえ」
テネシーが言って、
「てゆーか原石なんかよく持ってったわねえ」
品質にこだわらなければその辺に転がってはいるけどねーとテネシーはのんびり。

「で?なんでアタシなんか狙うのかしら。まぁキャシーが狙われてるってことでしょ。何があってそうなったの?」



キャシーは一瞬迷ったが、前回の討伐の話をすることにした。
アデューイは何も言わず、ただそれを見守った。






「──そう…」

そして重苦しい前回の討伐の話を聞き終え、初めに、テネシーは深い息とともにそう呟いた。


あのマシンガントークのテネシーが静かに、考えながら、お茶を飲んでいるという光景は異様だった。
キャシーはその様子がとても恐ろしかった。

「遅いわね。緊急通報(エルブマークス)を送ったのに」
だから場の空気を変えるためにそう言った。
事実、遅い。

「森の中を来るのに普通は時間がかかるのよ。キャシーぐらいなんだからね、すんなり来るの」
テネシーがなだめる。
アデューイはあの森を来るのに時間がかかるという話になんとなく納得してしまった。勿論救援を求めたのに遅すぎるとは思うけれど、来る人間が魔法使いでは仕方がない気もする。

「もぉ来る頃よ」
テネシーがまさにそう言った瞬間、
叩き壊されそうな強さで扉を叩く音がした。



「中研特殊部隊だ!!」




そしてそう叫び名乗り飛び込んできた先頭の男は、先端が尖った金色の大きな杖をこちらに向けた。
男の身の丈ほどある杖というより槍のようなそれは。

その男のレベルXの水晶が輝く。



「あら〜意外。すごい人来てくれたわ〜」
そう言ってテネシーが立ち上がった。


レベルXの中研特殊部隊を名乗る男。
そして持つ『超増幅』の金色の杖。

彼こそ、次々期『長』候補・『副官』のひとりである、グレッグだった。


アデューイは初めて見る『副官』に目を丸くした。

副官の後ろから2人の男たちが飛び込んできて奥まで入っていく。
裏口からまた別の2人が入っていたらしく、テネシーがぐるぐる巻きにして捕えた男たちを見つけ、正面からと裏からとで安全確認を行った後、副官にそれを報告しに戻ってきた。

「あぁそうそう、信号出したのはそいつらのせいなの。処理お願いね」
テネシーがのんびりと言うと、中研特殊部隊の面々は頷いて男たちを外に担ぎ出して行った。



「いらっしゃいグレッグ〜さっき話全て聞いたとこなの。キャシーの初討伐。"Z"が狙われたり厄介な感じなのね」
テネシーがそう言いながらグレッグ副官に近付くと、グレッグ副官は表情を引き締め、こう言った。


「その討伐で保護対象だった男が、『負の魔法使い』に突然襲撃され、彼のいた班全てやられたのです」


「え…」
「なのでこちらからの緊急通報でまさかと思い──」



「それ──オーサーのことね!?」


キャシーが叫んだ。
途端、グレッグ副官の顔色が一変する。
「キャシー!?何故貴女がここに…」
「えっ!?アンタ気付かなかったの?!よくそんなことで安全確認したわね」
テネシーの影になって見えなかった、などとそんなやりとりを横に、
「オーサー…!」
キャシーは両手で顔を覆った。
素直すぎるこの副官の表情を見れば、何を聞くより早かった。


やり場のない思いをどこにぶつけていいかわからない。
なんとか抑えようとして、
乱れているところなど見せたくもないし見られたくもないのに、
──オーサー…!──あぁ、ジェーン…!

アデューイもそんなキャシーの様子を見ていたけれど、彼としてもかける言葉がなかった。
アデューイ自身もかなりのショックを受けていた。

あの時、あんなに近くで語ったあの人が。
娘を思う気持ちをただ利用されただけのあの人が。

「──班まるごとって…リーダー…レドは?!」
キャシーは顔を覆ったまま、震える声で聞いた。
「レドは大丈夫です。別の班でした。…班の全滅を見つけて報せてきたのはレドの班でした」
「…!」

またあの優しい男は、そんな現場を…

「…そのオーサーって人のことも、レドって人のことも、今しがた聞いたばかりだったのよ。──戦況は最悪なわけね」
テネシーはそっとキャシーの肩を抱いた。
キャシーは一瞬振り払おうとしたが、結局そのままに俯いた。
アデューイもグレッグ副官も黙る。


「──『あなた』がここに来たわけは?グレッグ副官。本来副官レベルの人間が来るようなことじゃないでしょ」
急にキャシーはそう言って顔を上げた。

「それは…」
呼びかけられたグレッグ副官は言いかけて、やめた。
はっきりとそれが分かった。

「あんた、昔から下手よね」
キャシーの言い方は、懐かしむようなこともなく、小バカにできる気安さもなく、ただ言い放った、というのが近い言い方だった。
「つまり私のことが関係していて、長に口止めされてるわけね」
「自分の意思でもあります!」
そう答えて、また場の温度が下がる。見事な墓穴。
冷たく重い場の空気に、グレッグ副官は明確に白状せざるを得ないことを悟った。

「…テネシー殿から緊急通報があった時、オーサーという男の死で、キャシーに近しく関わった魔法使いが危険な目に遭う可能性が指摘され、緊急警戒通達を出すように会議がおこな…」
「ちょっとぉ、殿とかやめてよぉ!それならせめて『ちゃん』で…」
だが。
いくらなんでも詳細に言いすぎる。
これはまずい、とテネシーは全然関係のない話をしようとしたが、…間に合わなかった。


『キャシーに近しく関わった魔法使いが危険な目に遭う可能性──』


皆、キャシーを見る。
どんな顔をしているのか、それを見なくては。

でもキャシーの顔色は…変わらなかった。
表情も何一つ変わらなかった。
…それが不気味だった。

「テネシー、グレッグ、ここは任せるわ」
そしていきなりそう言ってきびすを返した。

「どちらに…っ」
慌てたグレッグ副官が声をかけると、

「シンディたちのところ。これで彼女たちに何かあったら長でもただでは済ませない。そう伝えなさい」
キャシーが言い放つ。こちらを振り向きもしない。

「あ、大丈夫です、生徒たちなら『負の魔法使い』をつかまえて大使館に戻ったと報告を受けています」
グレッグ副官が少しほっとして言う。
アデューイもそれを聞いてほっとする。
だがキャシーはその顔を再び見せることなく、黙って出ていった。

アデューイは慌てて2人に挨拶をして、キャシーを追った。


「どうしたんでしょうか」
グレッグ副官は呆然という。
テネシーはチラッと副官を見て
「…アタシはあの子ほど感じられてはないんだろうけど」
そしてキャシーとアデューイから聞いた話を思い出し。

「多分、『負の魔法使い』を甘く見ちゃダメだってことなんでしょうね」





 
 
 



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